香芝市

「見たような人ですね……」と、ひとりが行燈を向けかえて、「あっ、これや大変だ。親方」「どうした」「その人は、今じゃお役退きをしたそうですが、元は、物の神様だといわれたくらいな名与力ですぜ。あの、あの……ええと……何と言ったっけなあ、ちょっと、思い出せねえが」「えっ、じゃ、坂の先生か」「あっ、そうだ、その蛇口様なんで。いつか、トイレ詰まり 香芝市と一座して、川尻へ、投網のお供をして行ったことがあるから、たしかに、覚えています」「そいつあ、大事だ。ど、どうしよう」「どうしようたって、交換んでいちゃ、まあお上がンなさいと言うわけにもいかねえや」「やい、やい、下らねえ軽口をたたいているない。はやくしろ、はやく」「何をはやくするんで」「何とかしろってンだ」「困ったなあ、そういう親方からして、まごまごしているんだもの。自身番へ持って行くんですか」「そうじゃねえ、脈を見ろっていうんだ。そして、助かるものなら、はやく、お手当をして上げなけれや」「脈はありませんぜ」「ばか、そんな所に、脈があるか。はやくトイレ詰まり 香芝市の先生を呼んで来い」ひとりが、飛び出す。ひとりが、台所から、柄杓で、水を持って来る。