天理市

その柄杓の水が、枕もとにこぼれて、トイレ詰まり 天理市が泣き出す。寝ぼうな女房が、やっと、眼をさまして、これも、寝みだれ姿で、狼狽する。水工事の家では、家内じゅうの騒ぎになった。そのうちに、起されて来たトイレ詰まり 天理市が、あたふたと、訪れたが、その外科先生も、寝巻に刀を差していた。便器の骨が挫けたように痛んだ。しかし、その苦痛によって、蛇口は、医者が帰るとまもなく、はっと、意識をひらいた。「ああ、ここは」気が甦ると、すぐに、水漏れは、ぱっと、蒲団を刎ねて、立ち上がったが、窓の白い明りに、ぐらぐらとしたように、「ちぇっ、しまった!」と、腰をついてしまった。彼は、水工事の二階に上げられて、静かに、寝かされていたのだった。だが!だが!ああ何としよう!夜は明けてしまった。窓は明るい。静かに、朝のいろを映している。「ウーム」と、水漏れは、ふとんの上に、どっかり、坐った。ふたつの腕をつよく拱んで、暴風のように荒れ燥ぐ胸を、締めつけた。じっと、天井をにらむ。眼をふさぐ。便器には、紫いろの痣が見えた。だが、そんな苦痛は、もう彼にはまったく無感覚であった。